椎名誠さんは、1944年生まれの作家さんです。近頃では、中学校の国語の教科書に作品が掲載されていたりもします。息子さんとの父子の交流を描いた私小説『岳物語』,『続・岳物語』が有名です。
(『岳物語』,『続・岳物語』は僕も結構好きな作品です)
その椎名誠さんのエッセイ集の1つに、『赤眼評論』があります。
これは、
1982年〜1983年ごろ に、「オール讀物」「ドリブ」「朝日ジャーナル」「ナンバー」などで発表されたエッセイを集めたもので、文庫本は僕の生まれた1987年に、文春文庫から刊行されています。
僕はそれを、16歳の頃に BOOKOFF で買ったのでした。
この『赤眼評論』の中に、ブリーフとトランクス(デカパン)のことを書いた一篇があったので、それを紹介してみようと思います。
文春文庫版でいえば、39ページから42ページまでの、
『さらばデカパン』 というエッセイです。
(先述したとおり、1982年頃に書かれたものです。書き手の椎名誠さんが38歳のときですね)
■ パンツ(デカパン)からブリーフへの移行さて、『さらばデカパン』は、
パンツかブリーフか、という問題についてはこれまであまり明確に語られることがなかった。いや、むしろあまりに語られなさすぎたといってもよいかもしれない。
という書き出しで始まります。ここでいう《 パンツ 》というのは、所謂デカパン(トランクス)を指すのは自明でしょう。
そして、書き出しに続いては、
パンツからブリーフへの移行 は、
褌からパンツへの移行(「第1次パンツ革命」)ほどのダイナミズムが無く、なんとなく起こったものだという指摘がなされ、それに対して、嘆かわしいという私感が書かれています。
褌からパンツへの移行 のときは、
全国各地のあらゆる層の骨のある褌派の男たちは、西洋パンツの安易な着用を頑強に拒否し、敢然とその批判と拒絶のゲリラ的闘争をくりひろげた
のに対し、
パンツからブリーフへの移行 のときには、
ところがわれわれはそのパンツとブリーフの混在混乱期に、あまり明確な両者の価値とその存在確認というものを行わなかった、というよりもむしろ基本的には、「パンツでもブリーフでも、好きなほうどっち穿いてもええけんね」という態度をとってしまった。「どっちでも自由だかんね」という姿勢をみせてしまった。
というのですね。
そして、
パンツ派の拒絶も抵抗もないまま、いつのまにか第2次パンツ大革命が“無血”のうちに行われてしまった
としています。
※ そして、さらに時が流れて1990年代となると、今度は、
ブリーフ派の拒絶も抵抗もないまま、いつのまにかじわじわと第3次パンツ大革命(ブリーフからトランクスへ)が達成されてしまった わけですね…。
■ ブリーフ率調査(1982年頃,by椎名氏)この『さらばデカパン』の中には、椎名氏が
銭湯なんかに行って仔細に観察 した結果としてのブリーフ率が書かれています。
曰く、
キャラコとかメリヤスのパンツを穿いている人はおどろくほど少ない のであり、
小学生から青年あたりまでは圧倒的にブリーフ派である。四十歳、五十歳代のおっさんにもブリーフ派は多い。パンツ派は十人のうち三人ぐらいいればいいほうである。
ということです。ブリーフ率70%はすごいですよね。さらに、若年層に限れば、90%を超えているということでしょう。
(しかも、色の記述がありませんが、やはり白ブリーフが大半と予想されます。いいなあ…。この時代をリアルタイムで生きてみたかった…)
※ そして、時は流れて1990年代になり、今度は見わたす限りトランクスだらけになったのでした。
全然目の保養にならないっ! ■ 椎名氏のブリーフ初体験レポさらに『さらばデカパン』を読み進めると、椎名氏がデカパンからブリーフへと移行を果たしたときのことが書かれていて興味深いです。
それは15〜16歳のころとあるので、彼の生まれた年から計算すると、1959年〜1960年頃にあたりますね。
(1) 移行の理由
ぼくも十五、六歳の時まではこのデカパンタイプを着用していたが、夏になってショートパンツになると、このタイプは徹底的に不都合なのである。ショートパンツの下からシマシマ模様のデカパンの裾がはみだしている、という恰好ほど不細工なものはない。それからあれはちょいとした姿勢で中のものがぽろんとそっくり覗けてしまう、という弱点をもっている。移行の理由として、
・ ショートパンツの下からデカパンの裾がはみ出すのが見苦しい
・ 中身がそっくり覗けてしまうのが見苦しい
というものが挙っていますね。これは今のトランクスでも同じ事が言えますが、どうも90年代以降は平気でトランクスをはみ出させたり中身を覗かせたりする人が多くなっていきましたね(苦笑) むしろ、ブリチラやブリーフラインのほうが恥ずかしいという風潮があるくらいで。
ここまで価値観が正反対になるというのは、やはり時代が変わるというのは、すごいことですね。
(2) ブリーフ初体験の感想
そこである日フトした何気なさでブリーフを穿いてみたのだ。するとブリーフというのは思いのほか 下半身の中心部が安定 し、なにか 体の中のエネルギーの中心がピタッと一個所に固定された 、というようなかんじであった。青年期の椎名氏は、ブリーフをかなり気に入ったようです。
ブリーフのよさはここですよね。とても安定感がありますし、やさしく包まれる感じがします。
1990年代から2000年代前半にかけてのトランクス全盛期は、安定感や包まれる感じを好む人にとっては、受難の時期だったともいえるでしょう。今はボクサーブリーフがかなり普及して勢力を伸ばしているので、棲み分けが出来ていますね。
(スタンダードブリーフ好きとしては複雑な思いが無いわけでは無いのですけどもね)
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さて、『さらばデカパン』はあと少し続きますが、ここでの紹介は以上とします。
興味のある方は、古本を探すか、図書館等で見つけて読んでください。
1960年代から1980年代までの、白ブリーフ全盛時代は、ちょうど、高度経済成長やその後の安定成長時代と重なるのが興味深いですね。
もしかしたら、白ブリーフがリバイバルヒットすれば、景気もよくなるのかも!?( ← たぶんそんなことはありません )
しかし、「戦後の著しい経済成長は白ブリーフとともにあった!」というのはいえそうですね。タイムマシーンがあれば、体感しに行ってみたいものです。高度経済成長がどんなものだったのかということも、見わたす限り白ブリーフだらけという環境がどんなものかということも(笑)
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