新しい小説を完成させましたので公開します。
タイトルは、『新聞紙による手製〈 竹刀 〉にまつわる小編』 です。
K中シリーズ2年生編 の
第9回(I先生の剣道の授業) で書いた思い出(実話)
から、妄想を膨らませて作り上げたお話です。
拙い出来ですが、お楽しみ頂ければ嬉しいです。
※ この小説はフィクションです。実在の人物などとは一切関係がありません。
1.月曜日の2時間目、体育館にて「気をつけ!」
「脱帽!」
「2年3組、男子19名、異常ありません!」
「2年4組、男子19名、異常ありません!」
「お願いします!」
「お願いします!」
「着帽!」
「休め!」
11月になったばかりの月曜日。
今日もきびきびした号令と共に、I先生の体育の授業が始まった。
単元は剣道。その3時間目である。
剣道と銘打っているが、K中には竹刀も防具もない。そのため、新聞紙を棒状に丸めてガムテープを巻き付けたものを用いて行われた。
まるでチャンバラ遊びのようで滑稽だが、I先生の目が光っているので、男子たちはそれはもう真剣に、チャンバラ、もとい、剣道の稽古に励むのであった。
新聞紙で自ら製作した〈 竹刀 〉には、名前ペンでクラス・番号・氏名をはっきり書くよう指導されていた。
「よーし、稽古を始める前に、新聞紙竹刀にちゃんと名前が書いてあるか調べるぞー」
足を肩幅に開き、〈 竹刀 〉を持つ手は後ろという、〈 休め 〉の姿勢を取っていた生徒たちは、順次、己の〈 竹刀 〉をI先生に見せていくのであった。
もう授業も3回目である。さすがにたいていの生徒はきちんと記名されており、I先生の「よし!」という声が響き続けた。
だが、中には、「よし!」とならなかった者もいたのであった。
「名前が見あたらんぞ! どこにあるんだ?」
「す、すみません。書き忘れました…」」
「まったく。お前、前回の授業の時はちゃんと書いてあったじゃないか」
「あ、前のやつ、壊れちゃったんで、作り直したんです…」
「そうか。で、書き忘れたってわけだな」
「はい…」
「うむ。わかった。えっと、お前は、水口だったな?」
そう言いながら、I先生は、持参の極太マジックで、デカデカと氏名を書き込んだ。
「ほれ。次からは作り直すときも名前を書き忘れるんじゃないぞ!」
水口くんに〈 竹刀 〉を渡すと、右手で軽く白短パンと白ブリーフに覆われたケツを叩きながら、I先生はそう言うのだった。
「はい!気をつけます!」
「森谷! 〈 竹刀 〉はどうした?」
「どっか行っちゃいましたー」
「こら! どっか行っちゃいましたーじゃないだろ! 自分の〈 竹刀 〉くらい自分で管理できなくてどうするんだ!」
「すみませーーん」
「何をヘラヘラして居るんだ! 気合いが足らん! ケツを出しなさい!」
「はーーい」
間延びした返事をしながら、森谷くんはあっさりとケツを突きだした。
「バッチーン!」
ブリーフラインがうっすら浮かんだ白短パンのケツに、特大もみじが炸裂したのだが、相変わらず森谷くんはヘラヘラしたままである。
(なんだ、こいつは…。ある意味度胸が据わっているというのかなんというのか…)
内心でそんなことを思いながら、I先生は、
「次までに必ず新しい〈 竹刀 〉を作っておくこと! 名前もちゃんと書くこと! 分かったな?」
と告げた。
「はーーい」
「返事は、もっとシャキッと! 「ハイッ!」だ! やってみろ!」
「はいっ!」
「そうだ。やればできるじゃないか! ずっとそれを続けなさい!」
「ん? お前は6組の村松か? なんでここに居るんだ? この授業は3組と4組だぞ!」
「あ、いえ、その……」
「なんだ? はっきり言いなさい!」
「ごめんなさい! 〈 竹刀 〉を忘れたので村松くんに借りました!」
「前川! 忘れ物だな! 体操着等と同様、貸し借りはダメだ! 忘れ物をしたなら、正直に申告しなさい!」
そう言うと、I先生は左手で前川くんの背中をグイッと前へ押し、右手を白短パンとトランクスに覆われたケツへ炸裂させるのだった。
「バッチーン!」
「ベッチーン!」
「い、痛ぇ…。なんで2発も…」
「1発は忘れ物の分、もう1発は校則違反の分だ! 短パンからポケモンが透けてみっともない! 男のパンツは白だ!」
「……」
「返事が聞こえないぞ!」
「…はいっ!(ったく、なんで中2にもなって白ブリなんか穿かなきゃいけねーんだよ…)」
結局、「よし!」とならなかったのは、水口くんと森谷くんと前川くんの3名だけだった。
他の35名は、皆しっかりと、記名が徹底されていたのである。
2.月曜日の放課後K中では、基本的に〈 置き勉 〉は禁止されていて、どれだけ重くてもすべての教材を登下校の度に持ち運ばなければならなかった。
時間割によっては大変なことである。
特に、国語・社会・数学・理科・英語の基本5教科が勢揃いする日は、かなり荷物が重たくなるのであった。
ただし、新聞紙を丸めてガムテープを捲いた〈 竹刀 〉は、教室に保管しておいてよいことになっていた。さすがに嵩張るし、登下校中に振り回したりしたら危険だからと言う配慮に基づく措置であった。
壊れて不要となった〈 竹刀 〉は、解体して、自宅へ持ち帰って、廃棄するという約束になっていた。
「いいか、要らなくなった〈 竹刀 〉はちゃんと家へ持って帰って始末しろよ! 学校内とか、道ばたとかに、ポイッとほかることの絶対に無いようにな!」
最初の授業の時、I先生はそのように念を押したのだ。
2年2組の阿波野くんと金村くんは、野球部の仲良しコンビであった。金村くんは根っからのやんちゃなタイプであり、それに対して阿波野くんは根は真面目なタイプである。言い換えれば、金村くんがアクセルで阿波野くんがブレーキのような感じなのであって、なかなかうまくコンビネーションが作用していた。もっとも、時々、阿波野くんのブレーキでは金村くんを制御できずに暴走することもあった。
そんな彼らの〈 竹刀 〉はともにそろそろ寿命を迎えていた。ただでさえ荷物が重いというのに、さらに荷物を増やすのはいやだったが、学校内へポイ捨てしたことが分かればI先生に大目玉を食らうことになるので、仕方なく自宅へ持ち帰ることとなった。
「ああ、また新聞紙捲いて作るとか、めんどくせー」
「ほんと、ほんと、ってか、チャンバラ遊びとかダッセー」
「もっとソフトボールやりたかったよな」
「まったくだぜ。ほんとくだらねー」
そんなことをぶつくさ言いながら歩く2人は、コンビニの前へとさしかかるのだった。
「なあ、阿波野、あそこのゴミ箱に捨てようぜ!」
「え? でもゴミの持ち込みはお断りって書いてあるし、やめた方がよくね?」
「大丈夫だって、捨ててるとこ店員に見つからなきゃ問題ないって」
「そうかなあ」
「なんだよ、意気地無しだなー。俺は捨ててくから、お前は勝手に家まで持ってけば? まだ15分も歩かなきゃいけないんだぜ? やってらんねーよ」
そう言うなり、金村くんは、己の〈 竹刀 〉をコンビニのゴミ箱へねじ込むのだった。
阿波野くんの心は揺れ動いていたが、仲良しの金村くんが捨てたのに自分が捨てないというのも、落ち着かないなあと思い始めていた。
(なんかヤバそうな気がするけど、ま、俺とあいつの仲だしな。付き合ってやるか)
そう心の中で呟くと、結局、阿波野くんも〈 竹刀 〉をコンビニのゴミ箱へねじ込むのだった。
3.火曜日の1時間目、体育館にて「気をつけ!」
「脱帽!」
「2年1組、男子20名、異常ありません!」
「2年2組、男子19名、異常ありません!」
「お願いします!」
「お願いします!」
「着帽!」
「休め!」
火曜日の1時間目、2年1組と2年2組の男子39名による、剣道の授業が始まった。
いつもならば、挨拶の後は竹刀の記名チェック、そして稽古へ入るという流れである。
しかし、今日に限っては、そうはならなかった。
「金村! 阿波野! 前へ出なさい」
I先生の口から出たその指示に、場はざわめいた。
そして、一番驚いたのは金村くんと阿波野くんの2人である。もちろん、2人とも心当たりはある。だが、絶対にバレることはないとタカをくくっていたので、
(え? なんでバレてんの!?)
と、かなり動揺したのだった。
特に、半ば渋々、金村くんとの男の友情のために付き合った結果、巻き添えを食らってしまった阿波野くんは、
(だから、やめようっつったのに。ったく、金村のせいで酷い目だぜ…)
と、実のところ泣きたいくらいだった。
「お前ら2人がなぜ前へ出されたか。分かってるか?」
もちろん分かっているのだが、彼らは答えることはなかった。金村くんの場合は反抗心が、阿波野くんの場合は恐怖心が、ともに邪魔をして、声を出すことができなかったのである。
「なんだ。仕方ないな。これは何だ!」
I先生はそう言いながら、折れ曲がった2本の〈 竹刀 〉を両手で掲げるのだった。ガムテープに名前ペンで記された名前ははっきりと読み取れる。もちろん、そこには、金村くんと阿波野くんの名前が書かれている。
(しまった…。名前のことすっかり忘れてた……。ああ、俺アホだ…)
「昨日の夕方、ロー○ンの店長さんからお電話を頂いた。「おたくの学校の生徒さんが、チャンバラをうちの店のゴミ箱へ捨てていったから、回収に来てくれ」とな。俺はすぐに飛んでいって、謝って、回収してきた。そういうわけだ!」
そのロー○ンの近くには高校もあり、通りがかりの生徒が、ともかく色々なゴミを捨てまくるので、困り果てていた。店長は、こまめにチェックしていて、都度学校へ苦情を入れていたのだ。そのため、金村くんと阿波野くんが〈 竹刀 〉を捨てたこともすぐに把握され、即座に学校へ連絡が行ったというわけだ。もちろん、その学校というのが、いつもの高校ではなく、K中学だったのだが。
「役目を終えた〈 竹刀 〉は、きちんと自宅へ持ち帰って始末するように、あれほど言っただろう! 何か言うことは無いのか?」
そう促されて、まず阿波野くんが、
「ごめんなさい。反省しています」
と謝罪の弁を述べた。それに頷いたI先生は、金村くんの方へ視線を向ける。
金村くんは、唇をぐっと噛みしめて、しばらく黙っていたが、やがて口を開くや否や、
「だって、荷物が重いんだから仕方ないじゃないですか! 月曜日は、5教科そろい踏みだから、一番重たいんですよ!」
と、口をとんがらせながらまくし立てるのだった。
I先生は、金村くんの目をぐっと見据えながら、荘厳な口調でこう返した。
「事情は分かった。だが、だからといって、ロー○ンのゴミ箱に捨てるという行動は許されると思うのか?」
「そ、それは、……」
言葉に窮する金村くん。I先生はそんな彼の目をずっと見つめ続けていた。
1分近く経っただろうか。ついに金村くんが口を開いた。
「僕がいけなかったです。ごめんなさい」
I先生は、その返答に頷くと、次のように指示した。
「2人とも、けじめをつけてもらわなきゃな! ここで四つん這いになりなさい!」
屈辱的な指示だった。級友達がずらりと整列している前である。
だが、今度は潔く指示に従う金村くんだった。そんな彼の姿を見て、躊躇していた阿波野くんも続いた。
「よし。お仕置きだ! ちゃんと反省しろよ!」
I先生のその声を聞き、緊張が高まる金村くんと阿波野くんだった。
そして、金村くんは、こう切り出すのだった。
「先生! 今回の件は僕が言い出したことです。阿波野くんは乗り気じゃなかったんです。僕に付き合ってくれただけなんです。だから、こいつは許してやってくれませんか?」
それを聞いたI先生は、阿波野くんに問いかけた。
「阿波野、それは本当なのか?」
阿波野くんは答えなかった。いや、答えられなかった。
(確かに金村に付き合っただけ、なんだけど、俺も最後は自分で決めたことだし。それに、俺だけお仕置きを免れるなんて、出来ねーよ)
そんな阿波野くんの気持ちを察してかどうか、
「まあ、仮にそうだったとしても、阿波野も悪いことをしたのは事実だからな。やっぱりお仕置きはしないとな!」
と、I先生は宣告した。
「じゃあ、まずは、金村からだ!」
I先生は、金村くんの〈 竹刀 〉を、高く高く振り上げると、勢いよく白短パンのケツへ炸裂させた。野球部で鍛えている金村くんのケツは大きく丈夫だが、それでもガツンと痛みを覚えた。
「ウッ!」
という金村くんのうめき声と、
「おぉー」
という級友たちの低く静かな声が、体育館に響いた。
「次は、阿波野だな!」
I先生は、今度は阿波野くんの〈 竹刀 〉を、高く高く振り上げ、金村くんのときと同様に、白短パンのケツへと炸裂させた。金村くんのときよりも、心なしかやさしめではあったが、それでも威力は十分であった。
(おぉ、痛ぇ…。男同士の付き合いってのは、ラクじゃないぜ…)
そんなことを思う阿波野くんだった。
「次、金村! お前は主犯らしいから、もう1発だ。短パンも脱いで受けてもらうぞ!」
そう言うと、I先生は金村くんの短パンの腰ゴムに手をかけ、膝まで引き下ろしてしまった。露わになった金村くんのパンツは、青色のトランクスだった。
「さっきから色が透けてるなあと思っていたら、案の定だな! 校則違反の柄パン着用につき、1発追加!」
言うが早いか、I先生は金村くんの〈 竹刀 〉を振り上げて、青色トランクスのケツに炸裂させる。
バッシーン! ベッシーン!
2連打だった。うめき声を上げながらも、金村くんは見事に耐え抜くことが出来た。
「よし、じゃあ、これで終わり…」
I先生がお仕置きの終了を宣告しようとしたとき、阿波野くんが割って入った。
「先生! 僕も一緒に悪いことをしたんです! 僕も同じようにお仕置きしてください!」
予想外の言葉に驚いたのは、I先生と金村くんだった。
(おお! なかなかガッツのある奴だ! 自分から志願してくるとは……)
(阿波野のアホが。ったく、こんなとこでカッコつけなくていいんだよ)
「よし! わかった! じゃあ、お前ももう1発だな!」
そう言うと、I先生は今度は阿波野くんの短パンの腰ゴムに手をかけ、勢いよく引き下ろした。真面目な阿波野くんはいつでもパンツは白ブリーフの、ブリーフ派男子。この日ももちろん、バッチリ白ブリーフを穿いていた。
「うむ。阿波野は校則違反の分の1発追加は無しだな!」
I先生は、そう言いながら阿波野くんの尻に軽くタッチをすると、阿波野くんの〈 竹刀 〉を振り上げて、白ブリーフ一丁のケツに炸裂させた。
短パン1枚とはいえ、有ると無しとでは違うもので、先ほどよりも痛かった。それでも、阿波野くんは表情すら殆ど変えることなく、耐え抜いたのだった。
「よし。2人とも、きちんと反省できたか?」
「はいっ!」「はいっ!」
I先生は満足そうに頷くと、
「これからはちゃんとルールを守らなきゃいかんぞ! 特に、校外の方にご迷惑をおかけすることの無いように! 他のみんなも、よく覚えておきなさい! さあ、2人とも短パンを上げて、列に戻ってよろしい」
と告げ、ようやく剣道の授業が始まるのだった。
金村くんと阿波野くんにあっては、ケツの痛みに耐えながらの剣道となった。また、この後、2時間目から6時間目までの授業、さらに放課後の野球部の練習でも、ケツの痛みは持続していたのだった。
このことは、瞬く間に2年生男子全体へ広まった。以後は、すべての生徒が、使用済み〈 竹刀 〉をきちんと自宅へ持ち帰って始末したのは言うまでもない。
※ よかったら、「拍手」をお願いします。励みになります。
※ 僕が書いた、これ以外の作品については、
創作リスト をご覧ください。
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