( ※ 以下、事実を基にした、〈 フィクション 〉です )
1988年4月、ここは、H県にある公立のT中学校のグラウンドである。
時刻は午前9時55分。2時間目が始まって5分が経過したところだ。
体育科のA教諭の前に、2年1組と2年2組の男子生徒、合計35名が整列している。
「おい! BとC! 前へ出ろ」
BとCがモタモタしていると、
「何をタラタラしとるか! 早くしろ!」
とA教諭の怒号が走った。
ようやく皆の前へ出てきた2人は、A教諭に促され、級友たちの方を向いて直立した。
そして、2人に向かってA教諭が問う。
「お前ら、名札が無いじゃないか、名札が! どうなってるんだ!」
怯えきっているBとCは、もはや何も言えずに立ちつくすのみだった。
そんな2人に苛ついてきたA教諭は、右手を高々と振りかざすと、
バッチーン!!
バッチーン!!
Bの尻、そして、Cの尻を思いっきり打ち据えた。
シーンと静まりかえる中、A教諭は、
「名札が無いなら体操着の使用は認めない!さっさと脱げ!」
と宣告した。
恐怖と羞恥で固まっているBとCであったが、このままで居れば、〈 反抗的 〉と見なされて、さらに痛い目に遭わされることをよく知っていた。
2人は、意を決して体操シャツの裾に手をかけ、脱ぎ去るのだった。
上半身裸となり、再び直立しているBとCを見て、A教諭は、
「どうした! 短パンもだ! さっさと脱げ!」
とまくし立てる。
これには、BとCのみならず、整列している33名の生徒も動揺し、
(嘘だろ……。いくらなんでも厳しすぎるよ……)
(たかが〈 名札無し 〉だけでパンツ一枚にされるなんて……)
(Aの野郎、あまりに酷すぎだろ……。畜生!)
と、あまりの理不尽さに怯えたり、呆れたり、憤ったりするのだった。
実は、彼らが1年生の時に体育を担当していたのは別の教諭であった。その教諭が転勤になって、代わりに赴任してきたのがA教諭である。
前任の教諭も、体操着に名札の無い生徒には、体操着の着用を許さなかった。だが、それは上半身だけであって、短パンまで脱がせるようなことは無かった。
したがって、BとCが上半身裸になったところまでは、
(まあ、そういうものだよな……)
と、生徒達は思っていたのだが、さすがに、短パンまで脱げと言うのは想定外だったのである。
「早くしろ! 時間が勿体ないだろ!」
誰も、A教諭に反抗することなどできない。ならば、どれだけ理不尽なものであったとしても、指示に従うしかない。
グラウンドでは、別の場所で同じクラスの女子も体育の授業をしている。また、教室の窓からもグラウンドは見わたすことができる。
そんな状況下で、上半身裸にさせられ、さらに短パンまで脱がされようとしているのが憐れなBとCである。
まず、覚悟を決めたBが短パンのウエストのゴムに手をかけ、一気に引きずり下ろした。
よく穿き込まれ、フロント部分がうっすらと黄ばんでいるBの白いブリーフには、T中学校の校章がプリントされている。
Bはあまりの恥ずかしさと情けなさから、泣く寸前であった。それでも、
( 畜生、Aの野郎……。泣いてたまるか! ぜってー泣かん! )
と、男の意地で必死で涙を堪え、校章入り白ブリーフ一枚というきわめて恥ずかしい姿で、健気に凛々しく立っているのだった。
一方、隣にいるCの目はすでに潤んでいた。気弱な性格のCは、もはや恥ずかしさと情けなさに完全に負けてしまっていたのだ。
( あー、C泣いちゃったぜ…… )
級友たちは、憐憫の目でCを見ていた。また、Bは、
( 泣くなよー。俺だって泣きてーよ。でもAの前でなんか泣くなよー…… )
と思いながら、必死で涙を堪えているのだった。
「おい! C! さっさと脱げ!」
A教諭が促しても、Cは短パンを脱ごうとはしなかった。〈 反抗的 〉な態度と見なされ、さらに厳しい罰を受けることになるのだろうか。
皆がそう思ったのだが、
スルッ!
Cの短パンが足首まで一気に下ろされた。
下ろしたのは、Bであった。このままでは、Cはもっと酷い目に遭うだろうと、よく分かっていたBが、Cの短パンに手をかけて、一気に引きずり下ろしたのだった。
思いがけず、白ブリーフ一枚の姿になってしまったCは、むしろそれで吹っ切れたのか、潤んだ目のままではあったが、短パンを足から抜き去ると、Bの隣で凛々しく直立した。
33人の級友達は、何も表だった反応を示すことはできなかったが、
( すげーよ、こいつら…… )
と、内心でBとCのことを讃えつつ、A教諭に対する憤りの気持ちをめらめらと燃やし続けていた。
それを知ってか知らずか、A教諭は、BとCを蔑むような眼差しで見つめながら、
「名札が無い奴はこうだからな。教室での保健の授業で忘れ物をした奴もだ。よく覚えておけ!」
と、言うのだった。
この後、授業は、運動能力テスト・体力診断テストのために、50m走やハンドボール投げの記録測定が行われた。その間、BとCはずっと、校章入り白ブリーフ一枚の姿で居なければならなかった。
午前10時40分、2時間目の終了とともに、ようやくBとCは、服を着ることを許された。
= 後書き =
この小編はフィクションですが、元ネタがあります。
はやしたけしさんの著書、『ふざけるな!校則(パート3)』の第5章に、とある公立中学校の校則が全文掲載されています。( 〈管理教育〉に興味のある人の間では結構有名なのかもしれません )
ふざけるな!校則―負けるな!全国の中学・高校生へ!〈パート3〉
本の出版は1989年7月、したがって、ここに掲載されているのは、その少し前の校則ということになります。
今回の小編と関わる部分だけ、引用しておきます。
(9) 本校では、靴下だけでなく、以下にあげるもの・及びその他の衣料品は全て、学校指定とする。下記のもの以外は、理由のいかんにかかわらず着用してはいけない。
(イ)男女共、ベルト〔校章入り。学年色〕
(ロ)男女共、夏服・冬服共、体育用制服。〔校章入り。学年色〕
(ハ)全ての下着類及び着用物。〔校章入り。全て白〕
(二)各種靴類。〔所定の枠内に正しく記名すること。〕
(10) 男女共、夏・冬共、カッター・ブラウスの下には本校指定のシャツ・スリップを着用すること。また、ズボン・スカートの下にも正しく本校指定肌着を着用すること。2重に着用したり、短パン・ブルマを着込んだりしてはいけない。
(12) 体育用制服の名札は大型ゼッケンタイプとする。詳しくは、別紙参照のこと。
● 男子で名札のない者は上半身ハダカで授業です。先生によっては下半身まで、真っ白いパンツにさせる先生もいます。信じられますか???校章入り白ブリーフの着用、短パン重ねばきの禁止など、徹底されていますね…。
また、体操着の名札無しの男子生徒は、ハダカで授業を受けさせられるという、当時の在校生からの情報が掲載されていました。酷いですね。
今回の小編は、この辺りを描き出してみました。
したがって、本作は、〈 歴史的事実を基にしたフィクション 〉ということです。
信じられない話ですが、今から25年前に、実際にこの日本でこういう学校があったということですねー。
今回はここまでとします。
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入浴の時にクラスの男子全員白ブリーフ一枚で整列して教師から名前を記入しているかチェックされてから全員一斉にブリーフ脱がされて入浴しました。
入浴後、脱衣場にて教師に全裸のまま体がよく拭けているかチェックされて全員が終わるまで全裸で整列されたりとか結構厳しかったですよ。 (平成2年の体験談です)