( ※ 以下、
〈 フィクション 〉です。時代設定は1999年,舞台はわが母校のK中です )
1.朝の着替えジリリリリリリリリリリ………
目覚まし時計の音が静寂を破る。そして、およそ十秒後に再び静寂が戻った。目を覚ました兄ちゃんが時計を止めたからだ。
まだ寝ぼけ半分で横になったままのぼくの体を、兄ちゃんが荒っぽく揺さぶってくる。
「おい!さっさと起きろ!おまえ6年生になって通学班の班長なんだから、寝坊して遅れていったりしたら恥ずかしいぞ!」
ぼくたちの地域の小 学 校では、集団登校を毎朝行うのが常識だ。校区がいくつもの通学班に分けられていて、その班ごとにまとまって登校するのだ。班長は、それぞれの班の最上級生のうちの一人が務めるのがならわしとなっている。去年は兄ちゃんが班長だった。そして、今年はぼくが班長になった。
寝起きの悪いぼくがやっと起き上がると、すでに顔を洗ってきた兄ちゃんが着替えを始めていた。用意されている白いカッターシャツに黒い学生ズボン。そして、黒い学生服に黒い学生帽。学年ひとつしか違わない兄ちゃんだけど、なんだか急に大人になってしまったような気がする。
パジャマのズボンを脱いだ兄ちゃんは、トランクスと白シャツという出で立ちになった。それを横目に、ぼくは顔を洗いに行った。
兄ちゃんがトランクスを穿くようになったのは、5年生の2学期のことだ。このころ、兄ちゃんのクラスでは、トランクスを穿いてくるヤツが一気に増えていた。そして、兄ちゃんも宿泊研修を目前としてトランクス・デビューを果たしたのだった。ぼくは、それから半年くらい遅れて、5年生に進級するときにトランクスを穿くようになった。その時すでに、トランクス派が半分を超えていた。6年生になった今では、白ブリーフを穿いているヤツはクラスに5人しかいない。
顔を洗い終えて部屋へ戻ったぼくは、ある異変にすぐに気付いた。兄ちゃんはまだ下着姿のままで、これから白いカッターシャツに袖を通そうというところだった。そして、こちらに背を向けた兄ちゃんの尻を包んでいるのは、真っ白なブリーフだったのだ。ぼくはとっさに声をかけた。
「兄ちゃん!なんで、白パンなんか穿いてるの?」
言われてこちらを振り向いた兄ちゃんの顔は、赤らんでいた。そして、カッターシャツのボタンをぎこちない手つきでとめながら、
「ま、まあな。中 学 生になるといろいろあるんだよ・・・」
と、歯切れの悪い返事をした。
中 学 生になると一体何があるというのだ。ますます気になるではないか。それで、ぼくはさらに問いかけた。
「いろいろじゃわかんないよ。気になるから詳しく教えてよ~」
兄ちゃんはしばらく黙っていたけれど、学生服の胸ポケットから取り出した小さな手帳を開きながら、話し始めた。
「ここに学校の規則が書いてあるんだけど、ほら、ここ見てみろよ」
言われたところに目をやると、そこにはこう書いてあった。
『(5)下着
○ はでな色物、柄物の下着は着用しない。色は白がのぞましい。』ぼくはビックリした。中 学 生になるといろいろと規則が厳しいということは知っていたけれど、下着まで決められているとは思わなかった。だが、仮に規則違反のトランクスを穿いていたとして、どうやってバレるのだろう。まさか、パンツの検査なんてするのだろうか。ぼくは、中 学 生になった自分自身や友人たちが、ズボンを下ろして白ブリーフ丸見えで整列している光景を思い浮かべて慄然とした。
「で、でもさ、白パン穿いてるか柄パン穿いてるかなんて、服を着てたらわかんないじゃん。まさか……パンツの検査とか……」
ぼくは自分の顔が赤らんでいくのを感じていた。そして、相変わらず顔を赤らめたままで、兄ちゃんが答えた。
「最初の体育の時間に、それっぽいことはあったよ」
「……。うそ……パンツ見られるなんて恥ずかしそう……」
「そりゃお前、恥ずかしいなんてもんじゃ……。でも、普段は検査とかそういうのはないみたいなんだ」
「じゃあ、別に柄パン穿いてたって大丈夫なんじゃないの?」
「ところが、それがダメなんだなぁ」
「どうして?」
「体育の短パンって、小 学 校の時のと同じ白いのなんだけど、あれって丈が短くてペラッペラだろ? だからさ……」
ぼくは小 学 校での体育の時間の光景を思い浮かべてみた。そういえば、トランクスを穿いている友達の白い短パンには、たいてい色や柄が透けているな。そして、裾からトランクスがはみ出してしまっているヤツも何人かいるな……。
「あ、そっか……。体育の時間にバレちゃうってことね……」
「そういうこと。だから、ほとんどのヤツはちゃんと白ブリ穿いてきてる。まあ、お前も、来年になったら同じ運命だ!」
兄ちゃんは笑いながらそんなことを言った。ぼくはというと、そんな兄ちゃんの白ブリーフ姿を見ながら、やっぱりダサいなあと思っていた。そして、自分も中 学 生になればこのダサい白ブリーフに逆戻りしなければならないのだと思うと、ちょっぴり哀しかった。
「まあ、5年くらい前までは、髪の毛もみんな丸坊主だったらしいからな。それを免れただけでもよかったよかった……」
そんなことを言いながら、兄ちゃんは黒い学生ズボンをさっさと穿いてしまった。そして、ベルトを締めると、
「ほら、お前もさっさと支度しろよ!」
と言いながら、朝食をとるために居間へ向かった。
2.久しぶりの白ブリーフ ~「学校用に白いパンツを用意して欲しいんだ……」~この朝から遡ること数日。夕方の台所で、兄弟の母がせわしなく食事の支度をしている。そして、十数分前に帰宅した中 学 生の兄貴は、居間の方からちらちらと母の様子を窺っている。
(あの子ったら、何をそわそわしてるのかしら……)
息子のようすがいつもと違っていて、落ち着きがないことに、母はとっくに気付いていた。そして、夕飯づくりの作業が一区切りついたところで、思い切って声を掛けてみるのだった。
「あんた、何か用事があるんじゃないの? 母さんは忙しいんだから、さっさと言ってごらんなさい」
「いや、別に……」
「私の経験からいくと、何か言いづらい用事があるんでしょ? 思い切って言っちゃいなさい!」
息子の顔がみるみる赤らんでいく。母は息子が何かを告げようとしていることと、そのことが羞恥を伴うことであることは分かっていた。だが、その内容がどんなものであるかということについては、まったく予想も立たなかった。
「その、……パンツのことなんだけど……」
ああ、なるほどそういうことかと母は納得した。そして、この子が5年生の時、パンツを柄物のトランクスに変えたいというのを切り出してくるときもこんな感じだったなあと懐かしがっていた。
「パンツがどうしたの?」
「あの……学校用に白いパンツを用意して欲しいんだ……」
「白いパンツって……前に穿いてたようなやつ?」
「……うん。柄パン禁止だから……」
「へぇ。あんたの学校、厳しいんだねぇ。何枚くらい用意すればいい?」
「えっと……とりあえず5枚か6枚くらいかな……」
「じゃあ、明日スーパーでブリーフ買っとくから」
無事に用事を伝え終えた息子は、少しすっきりした表情を取り戻すと、居間へ戻ってテレビのスイッチを入れた。
そんな中 学 生になったばかりの息子のことを、かわいいなあと微笑ましく思いながら、母は再び夕飯の準備をすすめた。
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次の日の昼下がり、スーパーの子ども下着売り場へ向かうと、すでに先客が居た。それも複数である。
(あら、珍しいわね。どうしたのかしら)
近づいてみると、先客は知った顔ばかりだった。それは、息子の同級生の母親たちであった。
「どうも、皆さんも息子さんに頼まれて?」
「そうなの。白いパンツが必要だからって」
「うちも」
「うちも」
「5年生の時に柄パンに変えたいっていうんで慌てて買いに来て、こんどは白パンが必要だっていうんで慌てて買いに来て、ほんとバカみたいで笑っちゃう」
「柄パンはダメだなんて、厳しい学校ね。厳しい分、落ち着いてはいるみたいだけど」
「荒れてるよりは、いいわよね」
そんなことを言いながら、母親集団は、陳列された白ブリーフを買い物カゴへ入れていく。たいていは2枚組のものを3つ買うのだった。
かつては、男児用の下着コーナーは、どこでもほぼ白ブリーフで占められていた。しかしこの頃では、白ブリーフの売り上げが減少し、トランクスの売り上げが増加するという傾向が全国的にある。そのため、サイズが大きくなればなるほどトランクスの扱いが多くなり、逆に白ブリーフはかつてよりは少なくなっているという店が多い。だが、この街に限って言えば、それは当てはまらなかった。どの店でも、相変わらず多くの白ブリーフが陳列されている。それはもちろん需要があるからだ。
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兄貴が中学から帰ってきたとき、弟は遊びに出かけているようで部屋にはいなかった。すでに勉強机には、新品の白ブリーフ2枚組3パックが置かれていた。どれも男児用160cmサイズのもので、【中学・高校生用】との表示がされている。
(今どき、高校生が白ブリなんて、クラスに一人いるかいないかだろ。いや、中 学 生だって、普通はほとんど穿いてないよな。どいつもこいつもみーんな白ブリ穿いてるなんて、日本じゅうで俺らの学校ぐらいだろうな。学生帽があるのもそうだけど、なんか変な感じ……)
そんなことを考えながら、ひとつのパッケージを開ける。そして、2枚組のうちの1枚を取り出して広げてみる。何の変哲もない、真っ白なブリーフだ。一年半前までは、普通に穿いていた。でも、なんだか遠い昔のことのようにも思える。
学生ズボンを下ろし、中に穿いたトランクスも下ろす。そして、今取り出したばかりの新品の白ブリーフに足を通してみる。一気に引き上げると、あのやさしい綿生地のホールド感が懐かしかった。
穿き心地はとっても良いのだ。それはもう、トランクスなど比較にならないほどに良いのだ。ただ、やはりどうしても見た目がダサく思える。中 学 生になった今、またこのダサいパンツを毎日のように穿くことになるなんて、やっぱり屈辱的だ。
救いは、みんな一緒だということ。今どき、白ブリーフを穿き、今どき、学生帽をかぶる。俺らはともにその運命を背負う仲間だ。
3.「K中行ったら男子全員白ブリらしいぜ・・・」6年2組の教室は、いま2時間目の算数の授業中だ。黒板にはいくつかの図形が描かれていて、先生が線対称について説明している。だが、ぼくはあまり授業に集中できずにいた。今朝の兄ちゃんとのやりとりのことで、頭がいっぱいになってしまっていたのだ。この状況で、もし先生に指名されたなら、きっとぼくは大目玉を喰らうことになる。
幸いにして、授業終了を告げる鐘が鳴った。3時間目は体育である。女子が体操着袋を持って教室を出て行き、入れ替わりに1組の男子が入ってくる。
二クラスの男子が、体操服に着替え始める。やっぱり、トランクスを穿いているヤツが多い。逆に白ブリーフのヤツは何人いるのだろう。気になってしまったぼくは、何気なく皆の着替えを見ながらカウントしていた。1人,2人,3人,……。どうやら二クラス合わせて10人くらいのようだ。
「お前、まだ白パン穿いてるんだな。ダッセェ!」
「いいだろ、別に……」
ふいにそんなやりとりが聴こえてきた。からかわれているのは、幼なじみの仁くんだ。そういえば、あいつはずっと白ブリーフだった。確かにダサいとは思うけれど、どんなパンツを穿こうと本人の自由なのだから、他人がどうこう言うことはない。仁もかわいそうにと思いながら、ぼくは続きを聴いた。
「ガキみてぇだから、やめろって」
「余計なお世話だよ……」
「中 学 生になっても、白パン穿いてるつもりかよ~」
「いや、むしろ、中 学 生になったらお前らもみーーんな白パンだから!」仁がそう言うと、途端に教室が静かになった。そして、しばらくして今度は騒然となった。
「なんだよそれ。ありえねえ」
「そうだよ。なんで俺が白パンなんか穿かなきゃいけねえんだよ」
「どういうことだよ、もっと詳しく聴かせろよ」
再び静かになるのを待って、仁が話し始めた。
「俺には中3の兄ちゃんがいるんだけど、中学のきまりで、柄のパンツはダメなんだって。体育の時に柄パン穿いてると、透けるからすぐバレて、怒られるらしい。だから、お前らも、中学にいったらみーーんな白パンなの!」
この話が小6男子たちに与えたインパクトは大きく、教室は静まりかえったままだった。ただ、今ひとつ信憑性に疑問を抱いている者もいるようだった。そこで、ぼくも続いて話し始めた。
「ぼくの兄ちゃんは中1になったんだけど、今朝いきなり白ブリに穿き替えはじめたからびっくりしちゃった。5年生の時にトランクスになったのに。ホントのホントに、K中行ったら男子全員白ブリらしいぜ……」
このとき居合わせたのは、6年1組と6年2組の男子だけであった。だが、この話はすぐに隣の6年3組の男子にも伝わった。もちろん、女子には知られることの無いよう、再三の注意が払われたのは言うまでもない。
===== あとがき =====
以前、僕が
中1のときのブリーフ率 について記事を書いたときに、こんなことを書きました。
『ブリーフ率が、小6から中1当初で32%から79%にまで跳ね上がった ということは、男子全体の47%が、《 トランクスから白ブリーフへの再転向 》をしたという計算です。
これは、僕としてはすごく萌えます。鬼畜だけど、たまらなく萌えます。
小 学 生の時に、白ブリーフを卒業してトランクス派になった子が、中 学 生になって、一度は卒業したはずの白ブリーフに戻ることを余儀なくされる という展開。しかも、男子の半数近くがこの道を辿るというのは、当時の僕としては激萌えでした。「自分でブリーフ買いに行ったのかなあ?それともお母さんにお願いしたのかな?」とか、妄想が膨らむ一方でしたね。
単に、大っぴらにブリーフを穿けるとか、ブリーフ姿のクラスメートをいっぱい見られるとかにとどまらず、こういう萌えも僕は味わっていたわけです。
我ながら、変態さ加減に呆れるばかりです。』
本作は、主にこのことをテーマにして書いたものです。冒頭にも書いたとおり、完全なフィクションです。それこそ、僕が中学時代からずっと持ち続けている妄想を、形にしたものともいえます。
第1幕は、小6の弟の目線で書きました。兄貴目線にするか弟目線にするか、じつは迷ったんですが、弟目線を選びました。どうだったでしょうか? この後1年間は、兄貴は白ブリで,弟はトランクスで、学校へ通うことになります。そして、その後2年間は、兄弟仲良く白ブリーフでの登校となるわけですね。
第2幕は、最後に少しだけ兄貴の目線を入れていますが、主に母親の目線で書きました。時間軸で行くと、第1幕よりも前の話ということになります。お母さんにお願いして白ブリを買ってきてもらうパターンは、もう幾度も妄想を重ねてきたものです。でも、ふと思い立って、『お願いされる側』であるお母さん目線で書いてみると、また少し違った感じがして新鮮でした。
第3幕は、小 学 校が舞台で、再び小6の弟の目線となっています。時系列的には、第1幕と同じ日の午前中です。じつは、僕が小6のとき、「中 学 生になったら男子全員白ブリーフ穿かなきゃいけないらしいぜ」という話が広まっていました。この話の出所は誰だったのか結局分からないのですが、中 学 生の兄貴がいるヤツなんじゃないかと思っているんです。ここでは、そのあたりの妄想を形にしてみました。
本作を書きながら、実はかなり萌え萌えしていました。中1だったあの頃からもう15年ほども経つのに、これだけ強いインパクトがあるというのは、僕にとっては大きな萌えポイントだったということですね。
きっとこの話に萌える人って、かなり特殊なんだろうとは思うのですが、そういう特殊な人たち(?)のお役に立てたのならば幸いです。
中学になったら強制白ブリーフなんて萌ちゃいます(笑)