K中(その5) I 先生登場【1】 連絡黒板と更衣指導 (2013年4月29日初版公開,2020年3月30日再編集)
■ 初授業前日までのこと2年生になると、家庭科以外の全ての科目の教科担当が、1年生の時とは違う先生になりました。
1年生の時に保健体育を教わっていたM先生は、教育事務所というところへ異動となり、代わりにK中へ異動してきたI先生が、僕たち2年生男子の保健体育を受け持つことになったのでした。
実はこのI先生については、進級前の3月下旬の時点で、
「すごく厳しい体育の先生が異動してくるらしいよ〜」
「10年くらい前までK中に居た先生で、また戻ってくるんだって」
「そのころは生徒指導主事をしてたみたいだよ〜」
っていう噂を聞いていました。
そして、3月末の新聞に教員の異動一覧が掲載されているのを見ると、そこにはM先生が異動でK中を去るという記載があり、
「ああ、きっとその厳しい先生が僕らの受け持ちになるんだろうなあ…」
という風に推測していました。
そして、それは見事に的中したというわけです。
K中では、授業の持ち物の連絡に、《 連絡黒板 》という小黒板を使っていました。
各教科毎に係の生徒が決まっていて、自分の担当の教科の先生に次回の持ち物を尋ねに行き、《 帰りの会 》までに連絡黒板 へ記入するというルールになっていたのです。
例えば、僕は2年生の前期は、技術の担当でした。
僕の仕事は、技術担当のT先生に持ち物を訊いておき、その内容を技術の授業のある前日に、連絡黒板へ記入して、クラスのみんなに伝達することになります。
(技術のように、授業時数の少ない教科の担当になると、ラクです)
さて、2年生になって初めての体育の授業が行われる日の前日。
帰りの会のとき、教室前方に置かれた連絡黒板には、男子体育担当の子がI先生に訊いてきた体育の持ち物が記されていました。

男子体育の持ち物は、
《 体操服 》 と 《 短パン 》 と 《 帽子 》 と 《 ブリーフ 》と書かれています。
最初の3つはまあ分かります。M先生の時代も同じでした。いや、ほかの先生でも同じでしょう。
ここで注目せざるを得ないのは、最後に《 ブリーフ 》が明記されているところ。
連絡黒板に、
とはっきり書かれているのを目の当たりにして、僕は不覚にも少しドキドキしてしまいました。
そして、
「I先生って、やっぱり、ただ者じゃなさそうだな」
と、期待と不安が入り交じったような気持ちになりました。
そうこうしているうちに、帰りの会が始まりました。
会の中の連絡タイムで、男子体育担当の子が口頭で補足説明をしました。
彼曰く、
「体育の授業、男子は、着替えずに制服のまま、2年C組の教室で待機してください。ナップザックに体操服と短パンと帽子を入れて持って行ってください。あと、……《 そこに書いてあるもの 》を、穿いてきてください」
《 そこに書いてあるもの 》とは、要は《 白ブリーフ 》なのですが、彼は直接口に出すのが恥ずかしかったのでしょう。
教室には女子生徒も居ますし。
何せよ、ブリーフは持ち物というより、「ちゃんと穿いてこい」という指令だったということがこれではっきりしました。
※ このエピソードについて、少し想像も入れて、
連絡黒板の裏ストーリー を書きました。
ぜひあわせてどうぞ。
■ いよいよ初授業1.教室へI先生がやってくる!I先生の初めての授業の日がやってきた。天候はあいにくの雨降りだった。
持ち物は、前日の連絡黒板の記載

によれば、《 体操服 》 と 《 短パン 》 と 《 帽子 》 と 《 ブリーフ 》であり、
制服姿のままで2年C組の教室で待機するようにと連絡されていた。
K中では体育の授業は基本的に2クラス合同で行われ、男子は奇数クラス(A・C・E・G組),女子は偶数クラス(B・D・F・H組)で更衣することになっていた。そのため、僕たち2年D組の男子は、2年C組の男子と一緒に授業を受けることになり、更衣も2年C組の教室を利用することになっていた。
1時間目の社会科の授業が終わると、すぐに体操服と短パンと帽子の入ったナップザックを持って、2年D組の教室へ移動した。
C組の男子は自分の座席に座るため、僕たちD組の男子は、C組の女子の座席を適当に使うことになった。
10分間の放課(休み時間)はあっという間に終わり、2時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。2年C組と2年D組の男子、合計38名は、制服姿のままで着席して、I先生の到着を待った。
1分も経たず、教室前方の扉が荒っぽく開き、I先生が入ってきた。
目の大きな野性味のある顔立ちをしていて、浅黒く日焼けした肌で、髪は短く整えられ、さほど大きいわけではないものの筋肉質の引き締まった身体だった。
Tシャツにジャージのズボンという服装のI先生が、若干しゃがれた声で、しかし威厳のある口調で
「号令
」と言うと、慌てて体育係の生徒が応じ、型どおりの授業開始の挨拶が行われた。
挨拶が済むと、I先生が話し始めた。
「君たちの体育を担当することになったIだ。1年間よろしくな!」
「今日は雨が降っていてグラウンドが使えないし、体育館も使えないから、教室で授業するぞ」
「さて、早速だが、着替えの指導をしようと思う。最初に俺と一緒にやり、その後は自分たちだけでやってもらう。ちゃんと要領を覚えるように。いいな!」2.I先生の《 更衣作法講習会 》開始!僕たち38名の男子たちは、まず、I先生の説明を聞きながら、実際に更衣をすることになった。
「学生服とカッターシャツは椅子の背もたれに綺麗に掛けるように。まず、カッターシャツを掛けて、その上から学生服を掛けるんだぞ。さあ、やってみろ」学生服とカッターシャツを脱ぎ、カッターシャツを椅子の背もたれに掛けて、さらにその上から学生服も掛けた。《 綺麗に 》ということで、左右のズレが無くなるようにし、軽く布地を撫でつけたりもした。
「学生ズボンは綺麗に畳んで椅子の上に置く。いいな、ちゃんと畳むんだぞ!」まず先にナップザックから短パンを取り出しておいた。そして、学生ズボンを脱ぎ、短パンを穿き、最後に学生ズボンを綺麗に畳んで椅子の上に置いた。この手順を辿ることで、白ブリーフを露出している時間を最短にすることが出来るのである。
白ブリーフを見られることを嫌い、短パンを重ね穿きしていた生徒もちらほらと居たが、それを見たI先生は、
「こらっ!学生ズボンの下はパンツだけだ! 短パンはナップザックに入れて持ってくるように指示がしてあっただろ!」と一喝。あっけなく、《 短パン重ね穿き禁止令 》が発令されてしまった。
「シャツはナップザックの中へきちんと入れておくように。ナップザックの口はしっかりと閉じて、口が北側を向くように横倒しにして椅子の下に置くこと。北って分かるか? 教室の廊下側が北だぞ。いいな? 最後は、体操シャツを着て帽子をかぶる。よし、ここまでやってみろ!」シャツを脱いで体操シャツを着たら、ナップザックへシャツを入れて口を閉じ、口が廊下側を向くようにして椅子の下に横倒しにした。最後に体操帽子を被って、一丁上がりである。
[I先生の更衣作法まとめ]
・ 学生服とカッターシャツは椅子の背もたれに綺麗に掛ける
(まずカッターシャツを掛け、その上に学生服を掛ける)
・ 学生ズボンは綺麗に畳んで椅子の上に置く
・ シャツはナップザックに入れる
・ ナップザックは口を閉じ、口が北側を向くように横倒しにして、椅子の下に置く
3.体操服の個別巡回点検「よし。全員体操服へ着替え終えたな。ではしばらくそのまま各自の席のところで立っているように!」そう言って、I先生は、順次各生徒のところへの巡回をし始めた。その目的は、体操服に不備はないかという点検と、体操服の正しい着こなしの指導であった。そして、それと同時に、わざわざ連絡黒板に明記までさせて行った下着の指導がきちんと守られているかの確認も行われた。
[個別巡回点検項目]
(1) 体操服の不備の有無
名札は付いているか,名札に記名はあるか,帽子に記名はあるか
(2) 体操服を正しく着こなしているか
体操シャツの裾は短パンの中にしっかり入れているか
(3) 下着の確認
事前の指導通り、短パンの下には白ブリーフを着用しているか

「こらっ!」
パチン! (I先生の平手が白短パンの尻に炸裂)
「裾をだらしなくヒラヒラさせるんじゃない!ちゃんと短パンの中へ入れておけ!」
「すみません…」
ビシッ! (別の生徒の尻に平手炸裂)
「名札の文字が全然読めないじゃないか! ちゃんと書き直しておけ!」
「は、はい…」
べシッ! (また別の生徒の尻に平手炸裂)
「短パンの中はブリーフと指示しただろ! 連絡をちゃんと確認してないのか? 男のパンツは白だ!」
「…」個別巡回点検で問題が見つかった生徒の白短パンの尻には、容赦なくI先生の平手が炸裂した。
格段強く叩いているという感じではないものの、中学2年生にもなって先生にお尻を叩かれるというのは、それだけで十分な羞恥罰だったといえる。
やがて僕の順番となり、僕も点検を受けた。
名札や帽子の記名を確認された後、短パンの前の部分をグイッと前へ引っ張られ、一瞬だったがパンツを見られた。
僕はきちんと名札への記名をしていたし、体操シャツの裾は短パンへ入れていたし、白ブリーフもいつも通りばっちり穿いていたので、
「よしっ!」という声とともにI先生はすぐに次の生徒のところへ移動していった。
とりあえず、僕はほっとした。
4.更衣作法の実技テスト!全員の個別巡回点検が終わると、一旦制服へ着替えるように指示が出たので、みんな体操服を脱いで制服を着て、次の指示を待った。
「最初に予告したとおり、これから、体操服への着替えを実践してもらおうと思う。説明したことをよく思い出しながら、素早く決められた通りに着替えを行い、完了したら廊下へ出て静かに待っていなさい。では、始め!」合図とともに、38名の男子生徒が一斉に体操服へ着替え始める。
僕も、ほかの生徒たちと一緒に、さっきのI先生の説明を思い返しながら、着替えた。

「えっと、カッターシャツの上に学生服を掛けて…」
「シャツはナップザックの中へ入れて…」
「ナップザックの口ってどっちに向けるんだったかな…。あ、廊下の方か」
「体操シャツの裾は、短パンの中へしっかり入れるっと。よしできた!」
数分して、全員が再び体操服姿となって、廊下へ出そろった。
I先生は、順番に教室内を回りながら、作法通りになっているかを確認していく。
そして、不備が見つかると、その生徒の学生服の胸についている名札を見て、その生徒の名前を読み上げるのだった。
名前を読み上げられた生徒は、I先生のところまで出向き、指摘を受けて、小言を頂戴しなければならなかった。そして、先ほどの体操服の個別巡回点検で不備が見つかった者と同じく、尻に平手を1発喰らってから解放されるのであった。
「日光!こっちへ来い!」( 註:《 日光 》の部分には実際は僕の名字が入る )
僕も出頭を命じられてしまった。きちんと作法通りにしたつもりだったのだが、不備があったのだろう。
この後、I先生の小言を聞き、そしてあの逞しい右手が、僕の白短パンと白ブリーフに包まれた華奢な尻に
バチンッ!と炸裂するのかと思うと、ドキドキせざるを得なかった。大人しい性格で、どちらかというといい子ちゃんタイプの僕は、学校という場で叱られるという経験を殆どしていない。まして、お尻を叩かれるだなんて。羞恥心と好奇心とがぐちゃぐちゃに入り交じったような状態の僕は、半分上の空でI先生のところへ到着した。
「呼ばれたらちゃんと返事をしなきゃダメじゃないか!」
「はい、ごめんなさい…」
「ほら、ナップが歪んでるだろ! ちゃんとまっすぐ廊下の方へ向けなきゃいかん。こういうところに心の歪みが表れるんだ!」
「はい…」
「あと、ズボンのたたみ方も下手くそだなあ。中2にもなって恥ずかしいぞ! 自分のズボンくらい、きれいに畳めるようにならなきゃダメだぞ!」
「はい」バッチーン!返事をした直後、I先生の逞しく大きな右手が、僕の尻の真ん中に炸裂した。確かに痛かったが、しかし嬉しいような照れくさいような複雑な気持ちだった。
僕は、そのとき、I先生から《 父性愛 》のようなものを感じたのだと思う。実の父親との相性が悪かった僕は、もしかしたら父性に飢えていたのかもしれない。I先生が僕にしたことは体罰なのだが、僕はそこから温かな愛情を感じたのだった。
「よし。戻っていいぞ!」僕は再び廊下へ戻った。その後も何人かの生徒が出頭して小言を頂戴した後、尻に平手を受けて廊下へ戻るという展開が続いた。結局、半数と少しの生徒が出頭した。
5.I先生の学生時代中学校での授業は50分あり、ここまでで30分と少しが過ぎていた。まだ、15分以上残っている。しかし、今日は雨降りで、体育館も使えないため、教室でI先生の話を聞いて過ごすことになった。
その話はなかなか楽しかった。
I先生は中学時代は野球部に入っていて、高校でも野球をやるつもりだった。それで、部活に入部する日、散髪屋でしっかりと坊主刈りにして、野球部の部室へ向かったのだが、ガラガラッと開けた扉の向こうはなんとラグビー部の部室。部屋を1つ間違えてしまったのだ。
普通であれば、「すみません、間違えました」と言って退出し、改めて野球部の部室を目指すのであろうが、I先生はそのままラグビー部へ入部したというから面白い。しかも、高校・大学とラグビーを続け、国体へも出場したというのだから凄い。
スポーツ万能だったんだろう。僕のような虚弱体質の運動音痴からすれば、別世界の人だ。
僕がI先生のようになることなど、未来永劫ないだろう。あまりにもタイプが違いすぎる。
しかし、強くて逞しいI先生に対して、僕は畏れと憧れの気持ちを持ったのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回、第3節に少しだけ脚色が入っています。
実際には、短パンを前へ引っ張っての “パンツ検” は、さすがにありませんでした。
(トランクスが透けていたりはみ出ていたりする子は、注意されていましたけれど)
それ以外は、実際にあったできごとばかりです。
次回は、I先生の体育実技をお送りします。
【 次記事 :
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K中(その4) 冬の体育(長距離走と相撲) 】
今回関連記事 :
連絡黒板の裏ストーリー 総目次は、
こちら
私の学校では、そうした懇切丁寧(?)な指導の代わりに…体育の時間、遅刻の罰がありました。
グラウンドから教室に戻り、体操服→制服→体操服に着替えて、グラウンドに戻ってくるというもので、5分のタイムリミットがありました。
校舎からグラウンドまでは上り坂なので、すごくハードです。
高校生で悪知恵も付いているので、着替えを省く人もいるにはいましたが、大半は素直に着替え直していました。
授業開始に遅れた後ろめたさもありましたからね。
それでも、ボタンを閉めたりベルトを締めたりする過程は、みんな省いてた気がします。時間制限がきつかったので。
早く着替えるため、大体の人がパンツ一丁になってました。身体測定とかで脱がなくなっていたので、同級生のブリーフ姿を拝める貴重な機会でした(笑)
高校時代に、着替えのガードが一番固かったO君も、白ブリーフ全開で着替えていました。5分内に戻れないと容赦なくやり直しでしたから、気にする余裕もなかったんでしょう。
この遅刻の罰は、3年間で10回近くあったように思います。やり直しさせられた時は、力尽きて坂の途中で倒れそうになりました。