『夜の面接でのこと』部屋替えが行われると、その次の週には、寮のそれぞれの階で《夜の面接》というものが行われるのがならわしであった。
午後11時半の消灯時間に、階のフロア長の部屋へ集合して、たいていは1時間から1時間半くらいにわたって行われるのだった。
下級生を支援する立場のフロア長や副フロア長にとっては、自分の階で生活することになったメンバーについて知る機会となる。
また、下級生にとっては、同じ階で生活することになった仲間との親睦を深めるためのものとなる。
進行の仕方は、集団面接そのもので、下級生への質問が次々と出される。質問をするのは、たいていは副フロア長であった。
最初は、名前や学年などが訊かれ、しだいに込み入った話になっていく。
夜の男子寮である。性的な質問も当然ながら増えてくる。
たとえば、「初打席は何歳か?」とか「連続打席数は?」とかいった、遠回しな訊かれ方をすることも多かった。
もちろん野球のことを訊かれていているのではない。
前者は精通のこと、また後者は自慰のことだということは、話の流れから明白であるし、皆わかっているのだった。
こういった質問に答えるのは恥ずかしいものだが、他の奴らが何と答えるかには興味津々であった。
必ずしも正直に答えているわけではないだろう。それも皆が分かっていることだ。
Yくんの領域へ立ち入り、初めて彼の白ブリーフを確認したその日の夜。
奇しくも、僕らが夜の面接を受ける順番であった。
階の人数から、一度に全員で面接をすることは出来ない。そこで、階を半分に分けて、2日間で実施していた。
午後11時半になると、僕の部屋を含めた3つの部屋の寮生が、フロア長の部屋へ向かう。
フロア長は2人で、副フロア長も2人いる。そして、下級生は8人なので、総勢12人が一部屋へ集まって、面接開始となった。
1つ目の質問は、とりあえず「名前と出身中学校」であった。
下級生が順に答えていくと、副フロア長はそれをノートに記入していた。記録もきっちり作られるのだ。
「じゃあ次。学年・クラス。パンツの色」副フロア長が告げた2つ目の質問は、何とも不思議な取り合わせであった。
いったい、どういう意図で、この質問をこのタイミングに入れたのだろう。それは今でも分からない。
僕は、表面上は平静を装いつつも、内心ではものすごくドキドキしていた。
その大きな要因は、羞恥心である。何しろ、自分が白ブリーフを穿いていることを皆の前で明言しなければならないのだ。
ただ、その状況に置かれているのは僕だけではない。そのことを僕はすでに知っていた。
(Yくんは、今どんな心境だろうか。何て答えるんだろう)そんなことを考えていると、ますますドキドキしてくるのだった。
回答順は、Yくんが4番目で、僕がその次の5番目であった。
僕がドキドキしている間に、最初の回答者である、隣の部屋のIくんが、
「1年C組で、青色です」などと普通に答え、やはり副フロア長がメモを取っていた。
Iくんは僕と同じクラスで、トランクス派だった。確かに、青系統のものを穿いていることが多かった。
「1年D組で、緑色です」「1年A組で、黒色です」淡々と答えが続く。
特に盛り上がることもなく、すぐにYくんへ順番が回ってきた。
「1年B組……えっと……何でしたっけ?……」学年・クラスを告げた後、Yくんは質問を訊き直したのだった。
(ああ、やっぱり恥ずかしいよなぁ……。動揺したんだろうなぁ……)副フロア長は、少しだけ呆れたような感じで、
「ったく、ちゃんと聞いとけよな。パンツの色!」と返し、いよいよYくんは、答えざるを得なくなった。
もちろん、ここで適当に青とか赤とか答えることだって、別にできる。Yくんはどうするだろうか。
僕は、きっと正直に答えるだろうと予想していた。もし適当に答えるならば、最初からそうすればよかったのだから。
「………白……」予想通りであった。Yくんと僕のズボンの中にあるのは、白い綿の生地。
Yくんはその色を正直に告げたのだった。
「白ブリ?」先ほどから変わらない静寂の中、淡々とした口調で、副フロア長は、追加の質問をしてきた。
白という答えは、あまり想定していなかっただろう。
「……は…はい……」顔を少し赤くしながら、小さな声で返事をするYくんであった。
副フロア長はやはりノートにメモを取るのだが、最初の3人の時は色だけを書いていたのに対して、Yくんのところには
『白ブリ』と書き込んでいた。
こうして文字にされると、恥ずかしい感じが強まるので不思議なものである。
次は僕の番だ。
「白」と答えるか「白ブリ」と答えるか。一瞬だけ迷ったのだが、あくまでも、訊かれたのは“色”である。
「1年C組……白です……」特に大きな反応があるでもなく、副フロア長は先ほどと同様の淡々とした口調で、
「白ブリ?」と問う。
僕が肯定すると、ノートに再び
『白ブリ』という文字が書き込まれる。
「この部屋は《ブリーフ部屋》だな」不意にフロア長がこんなことを言うと、少しだけ笑いが起こった。
次の回答者は、僕やYくんと同じ部屋で、2年生のKくんであった。
「2年E組。赤色」ここで、副フロア長が真面目な顔をして
「赤ブリ?」と訊ねると、一同は笑いに包まれた。
Kくんも笑いながら、
「いやいやいや、俺はトランクスっすよ~」などと答えていた。
平成15年のこと、一般的には、トランクス派が圧倒的な多数であった。
だが、僕とYくんが同じ部屋になったことで、《ブリーフ部屋》が形成された。
その部屋の中では、トランクス派のKくんが逆に少数派になってしまうから面白いものだ。
僕もまた白ブリーフを穿いているのだということを、Yくんは知ることとなった。
まさか、ルームメイトが白ブリーフ派だとは、僕も思いもよらなかったが、Yくんも同じだっただろう。
とはいえ、それを知ったからといって、別に何事も起こらなかった。
干し方も、お互い変わらずに、ずっとシャツで囲っていた。
夏場であれば、下着の見える機会も多そうだが、あいにくの秋冬である。
ごくたまに、着替えの時にちらっと見えることがあって、それは至福の時だった。
Yくんが部活に行っている時間帯などに、領域へ立ち入っては干された白ブリーフを見たり触ったりはしていた。
スリルと背徳感に満ちたこの行為は、決して褒められたものではない。
だが、そのスリルと背徳感ゆえか、これが同年代の自然な白ブリーフ派とふれあった最後の機会だったためか、あのYくんと同じ部屋で過ごした半年間のことは、今でも忘れられない。
ところで、この夜の面接で、僕とYくんがブリーフ派だということは、階のメンバーには周知の事実となった。
ただ、だからといって、別に何事も起こらなかった。
みんな大人だった。
僕とYくんのところに、
『白ブリ』と記されたノートは、あの後どうなったのだろう。
もはや叶わないことは承知しているが、もう一度あのノートを見てみたいと、今でも思っている。
■ ひとまず、これにて完結
前話 (囲われし彼の白ブリーフ)
僕も白ブリーフ派だったので、夜の面接はなかったけど、とても憧れてしまいました。白ブリーフの友達通し仲良くなれたのかなあとか妄想しながら興奮してました。先輩の対応も凄く良いし、カッコいいなあと思いました。寮の規則とかどうだったのかなあ。。。もし違反したら、厳しいお仕置きがあって、それがケツ叩きだったのかなあ。。。とか良からぬ妄想ばかりしました。また素晴らしい話を楽しみにしています。